前のページで化石燃料と温暖化の相関が他の項目より小さいのが不思議でした。1960年から1970年にかけて化石燃料の使用量が2倍に増えているにも関わらず地上気温が下がっていることの影響が大きいと思います。(図1をタップすると寒冷化が確認できます。)これについて調べた内容を以下掲載します。
1960年から1970年にかけて化石燃料の使用量が2倍に増えているにも関わらず寒冷化しているのは、化石燃料からは温室効果を持つ二酸化炭素と冷却効果を持つ二酸化硫黄が同時に排出されているからでした。二酸化硫黄は大気中でCa,Mg,Naや水分と結合し、硫酸塩微粒子となって漂い太陽光を弱める作用があります。
大気中の硫酸塩微粒子の写真の引用元はこちら二酸化硫黄に起因する硫酸塩粒子が太陽光を弱める作用は大きく2つあります。一つは硫酸塩微粒子自身が太陽光を散乱し地上への日射量を小さくする効果(日傘効果)です。二つめは、硫酸塩微粒子に水分が凝結して雲に成長し日射を遮る効果です。
二酸化硫黄による冷却事例(アメリカ本土)1970年代に化石燃料起因の寒冷化がありましたが、その後さらに化石燃料の使用は増えて地球は温暖化しています。これは酸性雨による森林の死滅や喘息等の公害防止を目的として排煙中の二酸化硫黄除去が進められたからです。排煙に石灰水をスプレーし、硫黄を石こう(CaSO4・2H2O)として回収します。この処理で排煙中の二酸化硫黄は94〜99%除去されます。いっぽう、除去された二酸化硫黄と同じ数の二酸化炭素が排出されます。(図2)
化石燃料の使用量増加と排煙からの二酸化硫黄除去が同時に進行した結果、世界の人間活動による二酸化硫黄排出量の推移は図3のようになっています。1970年頃まで増加、1970年以降増加率は鈍化し1980年以降は減少に転じています。
2010年までの二酸化硫黄排出データの引用元はこちら 二酸化硫黄排出のHot spotデータの引用元はこちらこの間(1961〜2007)の日本の40地点の全天日射量(年間平均値)の推移は図4のようになっています。全天日射量は、太陽からの直射・散乱光含めて空の全方向から降りそそぐ日射の合計値です。
図4の引用元はこちら図4の全天日射量推移(5年移動平均)と図3の二酸化硫黄排出量推移の相関は図5のようになります。1960年代半ばから1970年代半ばにかけて二酸化硫黄排出量の増加に従い日射量が低下しているのがわかります。その後しばらく変化が停滞した後、1990年以降二酸化硫黄排出量の減少に従い日射量が増加しています。
化石燃料と温暖化の相関は二酸化硫黄の排出量で補正できそうです。また、補正に当たり化石燃料使用量ではなく化石燃料からの二酸化炭素排出量(図6)で確認することにします。
図7に化石燃料の二酸化炭素排出量(左軸)と人間活動の二酸化硫黄排出量(右軸)の推移の比較を示します。左軸のスケールは右軸のスケールの10倍であることに注意ください。
図8に温暖化と化石燃料からの二酸化炭素排出量の相関を示します。 は0.90でした。燃料使用量で見た相関より大きな値ですが、まだ前のページで見た他の項目より小さいです。これを二酸化硫黄排出量で補正したグラフを図8aに示します。(図8をタップしてください。)横軸は二酸化硫黄の冷却効果は同じ排出量の二酸化炭素の温室効果の27倍あることを意味しています。 は0.90→0.98まで大きくなりました。1960→1970年代の寒冷化の他、2010→2018年にかけて二酸化炭素排出量が停滞しているにも関わらず温暖化が進行している状態も補正できています。
前のページで温暖化と最も相関が大きかったのは大気中の二酸化炭素濃度(図9)でしたが、二酸化硫黄排出量による補正でさらに相関は大きくなるでしょうか。結果を図9aに示します。(図9をタップしてください。)横軸は二酸化硫黄100万トンの排出が二酸化炭素濃度0.18ppm分の温室効果を相殺することを意味しています。 は0.97→0.99まで大きくなりました。